一人親方の労災保険を扱っているサイトがかなり増えました。以前は、労災保険に加入するのにどうしたらいいか、どこから入れるかなど、かなり悩んでいた一人親方が多かったと思います。そういう意味でいえば、一人親方や元請けの企業もかなり選択肢が増えてよかったとも言えます。
しかしながら、どのサイトを見ても「安い」や「即日加入」をうたっているサイトばかり。(当団体も記事に書いていますが・・・)現場に入るためには重要な保険ですし、元請企業(依頼主)から見れば、加入していない人を現場に入れることは不安です。安全義務違反に問われたら大変ですよね。
でも、仕事をしていく中で一人親方が自分の身を守り、家族も守り、仲間も守るという意味では、本当に大切な保険なのです。
ここでは、労災保険に入っていないとどういうことになるか(現場に入場できない旨の記事は別の記事でご覧ください)を説明していきます。
ある意味、「労働災害補償保険」の本当の意義とでもいえるでしょう。
仕事中の足場から落ちた!
例:一人親方Aさん 35歳 男性 大工 妻33歳 長男5歳 長女2歳
ある年の10月2日。棟上げを手際よく行っていたAさん。すでにベテランの域に入っていて、周りからも信頼されています。そろそろ17時、仕事終わりの時間です。さて、下に降りて缶コーヒーでも・・・と思った瞬間。あろうことか、足を滑らし、足場から落ちてしまいました。救急車を呼び、救急搬送!
幸い、落ちた足場は一番下だったため、命に別状はなし。しかしながら、右足を骨折。1週間の入院と通院で全治一ヵ月との診断を受けました。当たり前ですが、その間は仕事ができなくなりました。
ここから物語は始まります。
これからどうする治療代
Aさんは、現場から救急車で救急で運ばれます。治療室でレントゲン検査。そして、頭を打っていたのでCTスキャン検査です。結果、右足の骨折。胸をなでおろしました。病院の先生から「一週間入院してください。大事を見てね」との事。そして、飲み薬や痛み止めの薬、化膿止めで治療が始まりました。当然、ギブスと松葉杖。そして、リハビリが始まります。
さて、皆さんはもうお分かりですよね。 この事故は、現場から救急車で病院に運ばれました。完全に「労働災害」です。
という事は・・・国民健康保険は使えません。つまり「3割負担」ではなく、全額免除対象ですので、治療費の負担は基本ありません。しかし、労災事故の認定が下りるまでは「10割自己負担」をしなければなりません。病院側も事情は分かっていますのでそれなりの対応はしてくれるでしょう。しかし、入院の際の保障費は一旦、入院保証金として徴収されます。そして、薬代。これも労災認定が下りるまでは10割自己負担。松葉杖代などもろもろかかります。
仕事中に足場から落ちてケガをし救急車で運ばれました。言うまでもなく労災事故は確実です。ですから、いったんは自己負担となりますが、払ったお金は戻ってきますし、その後の治療費も全額免除となる・・・予定でした。
ところが、Aさんはなんと!「特別加入の労災保険」に加入していなかったのです。
病院側はこう言います。「これは確実に労災事故ですから、労災保険を使用してください。国民健康保険は使えません。労災保険に加入していない場合は100%自己負担をお願いいたします」
えーーーーーー!
そうなんです。労災事故の場合は別の記事でもご覧の通り、国民健康保険は利用できません。という事は、労災保険に加入していないと100%自己負担となってしまいます。
「高額療養費制度」があるから大丈夫、と思った方!高額療養費制度は国民健康保険での制度です。ですから、労働中のケガによる治療費は・・・高額療養費制度対象外なのです。入院費から治療費などの治療代は全て自己負担となります。
仕事ができない間の生活保障
一人親方のAさん。民間の入院保険に入っていたため、少しはお金が出ました。しかし、100%自己負担には到底及びません。でも、そこは堅実な奥様!貯金を取り崩し支払いをしました。労災保険に加入していない事で、奥様にきつーいお灸をすえられ反省しています。
一週間後退院したAさん。
松葉杖の状態では当然のごとく仕事ができません。
という事は、収入が無くなるという事に直結します。一人親方は「個人事業主」つまり社長です。仕事が動いてなんぼの世界。仕事が動かな
ければお金にはなりません。この一か月間は「仕事ができない状態」です。誰がその間の生活を保障してくれるのでしょうか?銀行?クレジット会社からお金を借りる?借りれば「利子」がついてきます。早急に返さなければ利子が膨らんできます。
そこでやりくり上手な奥様。両親にに頭を下げてお金を借りてきました。
またまた奥様にお灸をすえられたAさん。猛反省しています。
現場が止まっていた!
一ヵ月がたちました。ギブスも取れ、完全復帰!Aさんも「良かった~」と一安心。なかなか行けなかった工事現場へと急ぎます。工事現場に到着!あれっ?棟上げが終わっていない?なんで?仕事仲間は?
そう・・・Aさんが「特別加入の労災保険」に加入していなかったことで、元請さんが「安全配慮義務違反」となり、工事現場がストップしていました!
そこへ、元請さんと一人親方の仲間達が来ました。
「ケガが治ってよかったね」と言ってくれています。仲間っていいですよね。
でも、元請さんは怒っています。お客様も怒っています。この怒りはどこへぶつければ良いのか?はい!元請さんの責任ですから、Aさんにぶつけてはいけないのです。元請さんが、特別加入の労災保険へ加入していない一人親方を使用したのがいけないのです。そして、今までかかった治療費も生活費もAさんと交渉の上、補償する義務が発生します。そうしないと「安全配慮義務違反」の業者となり、これからの仕事がなくなる可能性もあるのです。
Aさんは素直に謝罪しました。しかしなが、この間に止まっていた現場。現場で働いていた仲間全員が「収入が無い」状態になっていたのは言うまでもありません。Aさんはここで再度責任を感じ、反省をしました。
労災保険に加入していれば手に入ったもの
「あ~俺はなんてことをしてしまったんだ!」と頭を抱えて地面に伏せてしまいました。家に帰るまでの道のりがどれだけ長かったのか・・・家に着き、お酒をたしなみ憂さ晴らし!
飲みすぎたのか、そのまま気絶してしまいました。
目が覚めたのは朝の8時。ま~現場が止まっているのだからいいか・・・と思っていたら電話がなります。「おい!どうした!遅刻か!」いやいや、現場は止まっているはず。ふとカレンダーを見てみると・・・あれ?10月3日?ケガしたのは10月2日だから・・・あれれ?
そう、Aさんは「夢」を見ていたのです。ケガも何もしていなかったのです。10月2日棟上げが終わった後、みんなでお酒を飲んで、そのまま眠ってしまい、家に運ばれたとの事。そのまま眠り込んで「夢」を見ていたのです。
良かった~。と、そんな安心している場合じゃない!早く「特別加入の労災保険」に加入しなくっちゃ、仕事場には行けない!まずは電話しなくっちゃ!!!
めでたしめでたし。
夢で良かったですね。これが現実だとしたら怖い事です。ここでは物語として面白おかしく書いていますが、過去の事故発生事例を見ても実際に起きているのです。また、裁判事例としても記載されています。確かに「現場に入るための免罪符」として加入すること!これは大事な事です。しかし、加入したくないけど加入しなければならないという気持ちよりも、自分を守るために。そして自分の家族はもちろんの事、自分の仲間や仕事を守るために加入するんだ!という気持ちも大事なのではないでしょうか?
一人親方のAさんの事例から、特別加入の労災保険に加入していると手に入るもの。簡単にまとめてみました。
- 入院費用100%
- 薬代100%
- ギブス、松葉杖等のレンタル代
- 休業中の日額給付金(仕事ができななかった日数)
- 継続した傷病の費用
- 仕事が止まらなかった分の仕事仲間の補償
- 元請やお客、仲間の信頼
だれも「自分だけは事故は起こさない」と言います。でも、それは根拠のない自信です。だれも事故を起こしたくはありません。しかしそこは人間。100%という事はありません。
本当の意味での「ケガと弁当は自分持ち」は労災保険にまずは加入することから始ますのだと思います。