現場に入れないその理由

こんな会話、よくありませんか?
元請さん「Aさん。新規の戸建て工事が〇月✕日からあるんだけど、頼める?」
Aさん「その日からは空けられるから、入れますよ!(やった!仕事入った!)」
元請さん「じゃー、仕事頼むね。施工見積もりよろしく。」
Aさん「かしこまりました。では、見積もり作ってFAXしますね。」
元請さん「お願いします。・・・あっ!確認だけど、労災保険入ってるよね?」
Aさん「・・・労災・・・保険・・・?」
元請さん「労働保険番号と加入日時、あと加入先の団体名もFAXしてください。」
Aさん「ちょ、ちょっと待ってください。労災保険はそちらで現場にかけているんじゃないんですか?」
元請さん「それは現場労災ですよ。自分で労災保険入ってないの?」
Aさん「え~、労災保険は加入してないです。」
元請さん「え?入ってないんですか?それじゃ、仕事頼めないよ。違う人当たるから今回は無かったことで。」
Aさん「確か・・・労災保険は任意だから、入っていなくても、仕事できますよね。」
元請さん「そりゃそうだけど、それはそっちの言い分であって、こっちには責任がかかってくるの!だから無理!」
Aさん「そんな~・・・」

こんなやり取り、結構多いようですね。

労災保険に加入していないと、仕事ができない!
その仕組みを簡単にご説明していきましょう!

労災保険未加入は法律違反?

結論から申し上げましょう。

特別加入の労災保険は「任意加入」の保険です。必ず入らなければいけない「保険」ではございません。
加入するかしないかは本人の自由です。
他のページでご説明していますが、特別加入の労災保険は「現場入場制限」にかかる保険ではございません。

ですので、特別加入の労災保険に未加入であっても現場に入ることは制限されませんし、未加入であっても法律違反でもありません。
加入するか、しないかは、親方の判断次第です。

労災未加入者へ仕事を依頼しない理由

特別加入の労災保険に未加入であっても、一人親親方は仕事ができます。加入していない事、それ自体は法律違反でもなんでもありません。

ではなぜ、労災未加入の一人親方に「仕事をさせない」となるのでしょうか?

下の図をご覧ください。

元請は、労働災害においてすべての責任を負います。
図のように、下請Aが下請けBに元請が知らない間に仕事を依頼しても、元請も下請けAも責任を負います。
一人親方Aが一人親方Bへ仕事を頼んだ。そして一人親方Bが一人親方Cに仕事を頼んだ。この場合でも、現場で仕事をする以上、元請は責任を負います。知らぬ存ぜぬは通用しません。

労災保険加入⇒一人親方の自由

仕事の依頼⇒依頼主の自由

現場の監督責任⇒元請・依頼主の責任

上の図のように「一人親方C」が現場で労災事故を起こしケガをしたとします。

元請は「一人親方Cは一人親方Bが勝手に仕事の依頼をして使ってた。だからうちは関係ない!」と主張しても、全く通用しません。

裁判によっては「100%」とは言わないまでも、必ず元請は責任を負います。逃れることはできません。そして、この図のように元請・下請A・一人親方A・一人親方Bも依頼主ですので労災の責任が発生します。

また、一人親方Cにどんな過失があろうが関係ありません。故意でない以上は、元請は労災の全責任を負う事となります。

◆元請業者はすべての下請け(一人親方含む)を「指揮・管理・監督」する義務がある◆

この義務を【安全配慮義務】と言います。(労働安全衛生法)

法律で制定されている法律であり、義務(指導ではない)ですので、必ず守らなければいけません。

現場全体を守る意思を持とう!

このように、元請は一つの現場を完成させるために沢山の業者や一人親方に仕事を依頼します。依頼しなければ、一つの現場を完成させることはできません。
仕事を依頼した以上、現場で働く人を労災事故から守る【義務】が発生します。
雇用される方は「労働者」ですから、元請が「労災補償保険」をかけて働いてもらうことが可能です。よくある例では、現場で10名まで一括で労災保険をかける(俗にいう現場労災)などのように、労災保険をかけることができます。

しかしながら、一人親方は労働者ではありません。「労働者性について参照」

ですから、元請けさんが一人親方へ「労災保険」をかけることはできません。(取り纏めは可能です)

一人親方の労災保険(特別加入制度の労災保険)に加入する際は必ず「個人名」となりますので、会社名や屋号で加入することもできません。

このように、一人親方は「自分の責任で労災保険」に加入をしなければなりません。万が一、加入せずに現場に入り、労災事故を起こしてしまった場合は、元請がすべての責任を負うことになります。

労災事故が起きた場合は、元請だけでなく、あなたへ仕事を依頼した一人親方も責任を負い、現場全体が指導対象となり、仕事がストップする可能性もあります。

ですから、「一人親方の労災入っているよね?」と聞かれるのは当然の事であり、また現場全体を守るための依頼主の「義務」なのです。

一人親方の労災保険へ加入していれば、労災事故は自分の責任で処理することができるため、元請や依頼主へ迷惑をかけることはありません。また、現場が止まるようなこともありません。

加入していないと仕事ができない・・・というよりは、加入していないと仕事をさせるわけにはいかない、という事なのです。

特別加入の労災保険未加者を現場に入れないその理由。それは「その工事現場で働く人とその家族全体を守る」ためなのです。

 

参考:労働安全衛生法

参考:労働契約法 第5条

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